網膜・硝子体外来
       
      担当医
        池田恒彦(月、水)、植木麻理(木、土(奇数週))、南 政宏(月、火)、佐藤 孝樹(月、金)、石崎 英介(水、木)
       
      概要
        網膜硝子体外来は、手術治療を専門的に行うグループ(サージカルレチナ)とレーザーや薬物治療を専門に行うグループ(メディカルレチナ)に分かれている大学・病院が多いようです。当科におきましては網膜・硝子体外来が前者に、眼循環外来が後者に当たります。
網膜・硝子体疾患の当科での手術件数は年間500〜600件に上っており、近畿一円のみならず、中国、四国、中部地方等からも患者様をご紹介いただいております。
         
      過去3年間の疾患別手術件数
       
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
バックリング 84 85 77 47 67
硝子体手術 441 521 451 475 459
525 606 528 522 526
         
      代表的な対象疾患について
        (1) 糖尿病網膜症
        (2) 裂孔原性網膜剥離
        (3) 黄斑変性症
        (4) 静脈閉塞症
        (5) 黄斑上膜
        (6) 黄斑円孔
         
        (1) 糖尿病網膜症
        1) 糖尿病網膜症とは?
          糖尿病により網膜の血管が傷んでいき、この血管がつぶれていくことで網膜の栄養状態が悪くなります。さらに悪くなると異常な血管が生えてきて出血をきたしたり増殖膜という膜を形成し網膜剥離をおこしてくるという病気で、放置すると失明してしまいます。現在糖尿病の人は740万人といわれ、糖尿病になって10年で約50%の人が網膜症をおこしてくるといわれています。
        2) 糖尿病網膜症の症状は?
          初期にはほとんどの患者様に自覚症状がありません。場合によっては重症の網膜症の状態になっても自覚症状のない方もおられます。自覚症状がでてからでは手遅れであることも希ではなく、糖尿病と診断されたら同時に眼科にも受診することが重要です。
        3) 治療法は?
          まず、血糖のコントロールが一番重要で初期の網膜症では経過を観察していきます。網膜症が進行し前増殖期といわれる時期になると蛍光眼底造影検査という造影剤を用いた眼底写真を撮影し必要に応じて網膜光凝固(レーザー治療)を行います。さらに進行して増殖期といわれる時期になると硝子体出血や網膜剥離をおこしてくることがあり、こうなると硝子体手術を行う必要があります。手術を行うことで8割の人は失明を免れることができますが、元通りの視力を取り戻すことは困難です。
           
         
         
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        (2) 裂孔原性網膜剥離
        1) 裂孔原性網膜剥離とは?
          眼をカメラの構造にたとえると、フィルムの部分に当たる部分が網膜(もうまく)です。眼球の内側に張り付いた神経でできた膜で、ここで光を感じ取ります (図1)。この網膜に孔(あな)があき、そこから網膜が眼球の内側に向かってはがれていく病気を裂孔原性網膜剥離とよびます。
       
図1   図2
 
        2) 裂孔原性網膜剥離の症状は?
          特に明るい場所で虫のような黒い影が現れ、眼を動かすとついてくる(飛蚊症)、暗い場所で光の線が走り、目を閉じても消えない(光視症)、『暗い影がかかる』『カーテンが降りてきたように見える』などの見える範囲の障害(視野欠損)、等があります。
        3) なぜ裂孔原性網膜剥離が起こるか?
         
図3   図4
 
          4) 治療法は?
            網膜剥離がいったん発症すると、手術しか治療手段はありません。ごく狭い範囲の網膜剥離の場合は、レーザー治療で進行を食い止めることができる場合もあります。手術の方法としては、大きく分けて眼球の外側からの手術であるバックリング手術と、眼の内側からの手術である、硝子体手術の2種類があります。
            >> バックリング手術
            まず眼球の外側から冷凍凝固装置をあて、網膜の裂け目の部分を眼球の内側に向かって凍らせます(図5)。これにより、この部位に凍傷のような強い炎症が起こり、凍った膜同士がひっつきやすくなります。その上で、シリコンという材質でできたスポンジを眼球の外側に縫いつけ、眼球を内側に向かって部分的に陥没させます(図6)。すると、眼球の内側に突出した隆起の上に網膜がひっついて、裂け目がふさがります。 網膜の下に溜まっている水は必要に応じて、眼球の一部に小さな穴をあけて外に排除します(図7)。これで網膜は元の状態に戻ります。
         
図5   図6
 
図7    
   
            >>硝子体手術
            網膜を引っ張っている硝子体を切除する手術を行います。手術は、通常局所麻酔で行います。眼球の内部に照明と硝子体を切る特殊なカッターを挿入して、眼内の硝子体を取り去り、網膜を引っ張っている力自体をなくしてしまいます。その後、眼球の内部に空気を送り込んで、内側から風船をふくらませるようにして網膜を元の状態に戻します。網膜が元の状態に戻った時点で、網膜の裂け目に対して眼球の外から冷凍凝固を行うか、眼球の内側から光り凝固を行い、孔をふさぎます。
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        (3) 黄斑変性症
          1) 裂孔原性網膜剥離とは?
            眼はカメラに似た構造をしており、カメラのフイルムにあたる部分を網膜といいます。その網膜の中心部は黄斑部とよばれ、ものを見るときに大切な働きをします。この黄斑部が加齢にともなって傷んできた状態を加齢黄斑変性症といいます。加齢黄斑変性症には、網膜の一層奥にある脈絡膜から異常な血管(新生血管)を伴う滲出型と、新生血管を伴わない萎縮型があります。このうち、特に問題になるのは滲出型です。新生血管は非常にもろく、すぐに出血したり、血液中の成分が漏れ出したりします。これが黄斑部の網膜下に起こると、その結果、網膜視細胞が障害を受けて視力障害が起こります。発症の詳しい原因はわかっていませんが、網膜と脈絡膜の間に存在するブルッフ膜の加齢性変化が指摘されております。
           
          2) 症状
            ものを見る中心部分である黄斑部網膜が障害されるため、ものがゆがんで見えたり、見ているものの中心が欠けて見えにくくなったります。また、人により急に視力が低下する場合も多くみられます。視力低下の度合いはまちまちですが、進行すると0.1以下に低下する場合もあります。
          3) 疫学
            加齢に伴って起きる病気ですので高齢者に多く、特に60歳以上に多くみられます。また、男性は女性の約3倍の発生率といわれています。約20%には両眼性に発生します。
もともと、欧米において失明原因の第一位である加齢黄斑変性症は、日本人に少ない疾患でした。しかし最近では、日本でも発症数が増加しており、生活様式が欧米化したこと(主に食生活)や、TVやパソコンの普及により眼に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも原因のひとつと考えられています。アメリカの研究では喫煙者に多いことが報告されております。
          4) 治療法
            >>レーザー光凝固術
            新生血管にレーザーをあてて、血管を閉塞させてしまいます。問題点としては、レーザーの出力が大きいために網膜の正常な組織も障害されるので、新生血管の部位が黄斑部の中心を外れていることが条件となります。場合によっては治療後に視力がかえって悪くなることもあります。
            >>経瞳孔温熱療法
            光凝固術よりずっと弱いレーザーのパワーで、新生血管をレーザーで暖めて閉塞させてしまいます。ただし、すべての患者さんに効果があるわけではなく、効果のある病状が限られています。また、どのようにして効くのかという機序が今ひとつはっきりしていないこと、日本人 (白人よりメラニン色素が多いので、光が良く吸収されます)に最適なレーザー照射量についても確立されていません。
            >>光線力学療法
            光感受性物質と呼ばれる特殊な薬を注射して、薬が新生血管に集まったころを見計らって低出力のレーザー光線をあてて、発生した活性酸素で新生血管を破壊します。この治療法の場合、熱が発生しないので、網膜の正常な組織が障害されにくいことです。このため黄斑部の中心に新生血管が存在する患者さんにも治療が可能です。当院でも本年度より導入され治療が可能となりました。
            >>新生血管抜去術
            網膜の一部に穴をあけて、新生血管自体を手術で取り去ってしまいます。新生血管が中心から離れており、網膜の浅い部位であれば、視力回復も期待でき、病状も落ち着く可能性がある治療法です。2週間程度の入院が必要です。
            >>黄斑移動術(中心窩移動術)
            黄斑部の網膜機能がまだ残っている間に、人工的に網膜剥離をつくり黄斑部を新生血管のある悪い場所から、新生血管のない良い場所に移動させることにより視力の維持をはかります。手術は複雑ですが、黄斑部の中心に新生血管のある患者さんでも視力が良くなることがあります。新生血管の大きさや網膜の障害程度などにより、手術適応の可否が決定されます。
黄斑移動術は、視力回復も期待できる治療法ですが、この手術では意図的に網膜剥離を作らなければいけないことから、術後に再度網膜剥離が生じて再手術が必要となる可能性もあります。また網膜を回旋(視神経を中心に回転)させて黄斑部を移動させるため、術後に物が斜めにみえたり、二重にだぶってみえたりすることがあります。このような合併症が生じる可能性があるため、この手術は病状を限定しておこなっています。
            >>栄養補助食品(サプリメント)
            年齢とともに、ルテインとゼアキサンチンと呼ばれるカロチンの一種である色素が減少してきます。加齢黄斑変性症の場合、同年齢の正常者に比べて、その色素量が少ないと言われております。米国の研究でビタミンや色素等のサプリメントを補充したほうが、加齢黄斑変性が進行しにくいとの報告があります。ただし、詳しいことは科学的に証明されていません。また、大量に摂取した場合の副作用がないとは断言できず、十分注意して摂取する必要があります。
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        (4) 静脈閉塞症
          1) 網膜静脈閉塞症とは?
            網膜静脈閉塞症とは網膜静脈が隣り合う網膜動脈に圧迫されて、血流障害を生じた後に血栓によってせき止められている状態をいいます。網膜静脈は網膜からの血液を眼から排出して全身へ返す働きをしています。網膜静脈が閉塞すると、受け持っていた領域の網膜からの血液の流れが十分に行われなくなり、静脈の壁は血液や滲出液を網膜内へ漏らすようになります。このため眼底出血や網膜浮腫を生じて、視力障害を生じる病気です。
          2) 症状は?
            霧視:網膜の黄斑部に血管からの滲出液がたまることで起こります。中心部の視力がかすんで見にくくなります。
飛蚊症:視界をさえぎる暗い点状の影です。網膜血管が正常に働かないと、網膜には異常血管(新生血管)が生えてきます。この血管は壊れやすいために硝子体(眼球の中を満たしているゼリー)の中は血液が漏出して飛蚊症の原因となります。
眼痛:高度の網膜中心静脈閉塞症にときどき起こる新生血管緑内障と呼ばれる状態で、眼圧が著しく高くなるために起こります。
          3) 機序および疫学
            >>網膜中心静脈閉塞症(CRVO)
            網膜静脈のすべてが流れ込む主幹静脈の閉塞です。受け持つ領域が網膜全域であるため、網膜全域に眼底出血を生じてすべての血流が悪くなります。
視力低下はしばしば高度になり、発症時の視力が0.5以下であれば最終視力が0.1以下になる危険性が50%といわれています。
            >>網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)
            網膜静脈のうち分枝の一本が閉塞する場合をいいます。その分枝が受け持つ領域のみが障害を受け、眼底出血を起こします。
視力低下は閉塞した分枝によりさまざまで、自然に視力回復する場合も約半数でみられます。ただ視力は回復しても、物が歪んで見える症状は残ることも多い疾患です。
網膜静脈閉塞症を起こしやすい人とは?
以下の疾患を持っている人に起こりやすいといわれています。
・緑内障 ・糖尿病 ・高血圧 ・血液疾患 ・高脂血症
          4) 治療法
            >>薬物治療
            網膜静脈の閉塞部にできた血栓を溶かしたり、新しい血栓を作らないように血液が固まりにくくするような薬剤を内服して治療します。
            >>レーザー治療
            薬物治療を行っても、網膜の循環不全が継続して閉塞領域に網膜の虚血(主に血液によって運ばれる酸素の不足)を生じることがあります。蛍光眼底検査(造影剤を点滴注射して、眼底の血液循環の程度を判断する検査)で、網膜に広範囲におよぶ虚血が認められれば、将来この虚血領域に新生血管が発生してくる恐れがあります。新生血管は非常に脆弱で、硝子体出血や血管新生緑内障の原因となって、視力予後が不良となります。このため新生血管の発生を予防するために行われる治療がレーザーによる網膜光凝固術です。網膜光凝固術は、硝子体出血や血管新生緑内障の予防のための治療であり、視力を改善させる治療ではありません。
            >>硝子体手術
            硝子体手術によって硝子体(眼球の中を満たしているゼリー)を取り除きます。硝子体が取り除かれることで、酸素を多く含んだ房水(眼の中の組織を栄養している液体)が閉塞領域で虚血となった網膜の細胞に酸素を与えてくれる効果が期待できます。また破綻した網膜血管より漏出した化学物質(網膜血管を更に障害して血液成分の漏れを増幅させる物質)は硝子体にも拡散しているので、これを手術で取り除くことによる効果が期待できます。
            >>動静脈交叉部血管外膜鞘切開術
            網膜静脈分枝閉塞症において、網膜動脈による圧迫で網膜静脈の閉塞部位がはっきりとわかっている場合は、網膜静脈への圧迫を手術によって解除することが可能です。この術式を血管外膜鞘切開術(sheathotomy)といいます。非常に細い特殊な手術用ナイフを用いて、網膜静脈の上から圧迫している網膜動脈を切り離して圧迫を解除します。圧迫解除後に網膜静脈に血流改善が認められれば、眼底出血や網膜浮腫が約3ヶ月程度で消失して視力改善できることもあります。
            >>放射状視神経乳頭切開術
            網膜中心静脈閉塞症において、網膜静脈の閉塞部位が視神経乳頭内に存在することから、網膜静脈への圧迫を解除する目的で放射状乳頭切開術(radial optic neurotomy)を施行することがあります。特殊な手術用ナイフを用いて視神経近傍に切開を加えて静脈への圧力を減圧できると考えられていますが、網膜循環への効果は未だ判明していません。
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        (5) 黄斑上膜
          1) 黄斑上膜とは?
            眼をカメラの構造にたとえると、フィルムの部分に当たる部分が網膜(もうまく)です。眼球の内側に張り付いた神経でできた膜で、ここで光を感じ取ります。その網膜の中でも、ものを特に鮮明にはっきりと感じ取る場所(つまりものを見る中心の部分)を黄斑(おうはん)とよんでいます。
          2) 黄斑上膜の症状は?
            最初は、膜越しにものを見ることになるため、視力が低下します。徐々に進行し、膜が縮んでくると、その下の黄斑部も引っ張られ、黄斑部に皺(しわ)をつくることがあります。すると、ものがゆがんで見える、窓のサッシなどが波打って見える、といった症状が出現します。
          3) 治療法は?
            網膜を引っ張っている硝子体を切除する手術を行います(硝子体手術)。手術は、通常局所麻酔で行います。眼球の内部を照らす照明と硝子体を切る特殊なカッターを使います。まず、カッターで黄斑上膜の上にある硝子体を取り除きます。その後、網膜に張り付いている黄斑上膜を細い針ではがします。ある程度網膜からはがせたら、続いて特殊なピンセットで残りの膜をつまんではがします。全てはがせたら手術は終了です。
           
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        (6) 黄斑円孔
          1) 黄斑円孔とは?
            眼をカメラの構造にたとえると、フィルムの部分に当たる部分が網膜(もうまく)です。眼球の内側に張り付いた神経でできた膜で、ここで光を感じ取ります。その網膜の中でも、ものを特に鮮明にはっきりと感じ取る場所(つまりものを見る中心の部分)を黄斑(おうはん)とよんでいます。
黄斑円孔とは、その黄斑に孔(あな)があく病気です。
          2) 黄斑円孔の症状は?
            初期の症状は、視力低下ともののゆがみです。徐々に進行すると、見えにくい部分が大きくなり、より視力が低下します。見ようとするところの中心部が見えにくくなりますが、周辺の見え方には変化が起こりません。また、痛みもありません。通常は片眼だけですが、まれに両眼に起こることもあります。
          3) なぜ黄斑円孔が起こるか?
            眼の内部は、硝子体(しょうしたい)とよばれる透明でゼリー状の組織が大部分を占めています。この硝子体は、網膜の内側で面状にくっついています。この硝子体が、主に年齢の変化で縮み、網膜を引っ張ることにより、網膜の中心である黄斑部に孔があきます。なぜ、どのように硝子体が引っ張るのかについては、詳しくはわかっていません。
黄斑円孔は60代の年齢の方を中心に起こり、女性に多い傾向があります。
          4) 治療法は?
            網膜を引っ張っている硝子体を切除する手術を行います(硝子体手術)。手術は、通常局所麻酔で行います。まず、硝子体を切除し、硝子体の引っ張る力を取った後に、硝子体のあった部分に特殊な気体を注入します。この気体が眼の内側から網膜を押さえつけることによって、孔を閉鎖します。また、手術の後も、気体の効果を最大限に活用し、しっかりと孔を閉じるために、うつむきの姿勢をとっていただきます。
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