ご挨拶
消化器

 大阪医大周産期センターは、1981年の開設以来40年近くの歴史を重ねてまいりました。特に、1999年のNICU認可以降治療成績の向上は目覚しく、今では、在胎23週、400g台の赤ちゃんでも生存退院が十分期待できるようになりました。大学病院の NICU といえば、謳い文句とは裏腹に、週数制限があったり、受け入れ時間制限があったりと、“看板に偽りあり”の場合もあるようですが、当院は一切の制限がなく、24時間、365日、ほとんどの疾患に対応しています。
 “大学病院らしからぬ敷居の低さ”も、我々の売りのひとつです。退院後も、電話相談や、緊急時の入院受け入れなど、大学病院とは思えない“手厚いアフターケア”を実践していますし、他科との協調も極めてスムーズで、弊害でしかない“縦割り”を極力排除するように努めています。さらに、院内では解決困難と判断した場合は、速やかに外部の専門家へ直接相談するようにしています。院外搬送もためらいません。プライド、メンツは何人をも助けはしない。「自分たちの限界を見定めること」こそが医療の誠実さであると考えます。
 臨床面では、あくまで赤ちゃんを中心とした医療を心がけています。新生児医療は、ともすれば医療者側からの一方的な治療戦略に傾く傾向がありますが、治療法の選択は、本来は、赤ちゃん自身が決めることです。物言えぬ新生児では家族が代行するわけですが、それでも本人の代弁者以上の存在であってはなりません。当科では、その原則に従い、家族を中心に、本人の最大の利益という点を最優先しながら、チームで何度も話し合って意思決定をしています。大事なことは、医師はあくまでサポートに徹し、決して主導的な立場に立たないことだと考えています。
 また、大学病院ならではの使命として、臨床のみならず基礎も含めて、研究活動に重きを置いています。なぜなら、大学でしかできないことを求めてそれに特化することこそ、真の大学のセンターの役目と考えているからです。地道な研究を積み重ね、今では、新生児慢性肺疾患の研究に関しては、国内屈指の施設として、世界的に認知されています。特に、被引用回数の多さは我々の誇りです。独創性が評価されているのだと考えています。今後も、「挑戦しなければ、何かを失うことはないが、何かを得ることもない」ことを肝に銘じ、日本の新生児医療の成果を世界に向けて発信すべく、微力ながら、貢献していきたいと思います。

学会活動

荻原 享 (おぎはら とおる) 新生児科科長 小児科専門医

卒業年: 1982年(昭和57年卒)
自己紹介:

専門は、新生児医療における、活性酸素-フリーラジカルの関与。論文は、CLDに関するものが多い。
幼少期より、虫、花、鳥など生き物に強い興味を示し、友達と遊ぶより一人で虫取りに没頭し、子供が好きで、赤ちゃんが好きで、気が付けば新生児科医になっていた。
還暦をとうに過ぎたにもかかわらず、好奇心旺盛で落ち着きがなく、「休日にベンツに乗ってゴルフ場へ」行くおっさんとは真逆の自由人。学会、懇親会など、たくさんの人が集まる場所を嫌い、会議も大の苦手な、変な大学人。

趣味、特技:

虫捕り。専門は直翅類(バッタ、キリギリス、コオロギ類)。樹上性キリギリスの新種、セモンササキリモドキの第一発見者にして命名者。最も美しいキリギリス類と言われている。

モットー:

群れず媚びず求めず。孤立を怖がるな。権威を信じるな。

目標:
  1. ステロイドに代わる新たなCLD治療法の開発
  2. KL-6に匹敵する新たなCLD診断マーカーの発見
  3. 早産児に対する酸素療法の適正化指標の確立(酸素療法はステロイドと同じく、”絶対悪”ではありません)
夢:
  1. 我が家に、キリギリス、キンヒバリ、クサヒバリ、カワラスズ、ヤマエンマコオロギを定住させること(ミヤマカラスアゲハとジャコウアゲハはすでに定住してます)
  2. 我が家で、ヤマガラとツバメが巣作りをすること(メジロは毎年営巣してます)
  3. 4mを超える巨大ヒマワリを立派に育てること
  4. 菜園のタマネギ、トマトの質を向上させること
診療実績

新生児搬送は平日日中に対応しています。OGCSの基幹病院として母体搬送を広く受け入れており、NICU開設以来の新生児年間平均入院数は約250例、そのうち1000g未満の超低出生体重児が15~20例、1500g未満の極低出生体重児が約40例、在胎28週未満の超早産児が約15例、また人工換気症例が約30例です。NICUランク分類では、「総合周産期母子医療センターの可能性が高い施設」であるA2クラスに位置しています。

実績

CLD  antenatal priming、酸化ストレス、あるいは診断マーカーについて -ステロイドに代わる新たな治療法の開発を目指してー

1996年以来、CLDの発症・進展における、フリーラジカルの関与を証明するべく、一連の酸化ストレスマーカーを駆使した、研究成果を公表してきました。現在は、出生前の因子-CAMやDCHなど-によるantenatal primingに、酸素投与(たとえ21%酸素であっても、立派な酸化ストレスです)や、人工呼吸等による、出生後の傷害因子が加わって、CLDは重症化すると考えています。Multiple-hit theoryに近いかも知れませんが、人工呼吸や酸素投与は必ずしも必要ではありません。 また、肺特異的なムチンであるKL-6が、CLDの早期診断、重症度予測に極めて有用であることを見出し、その分野でも、さらに研究を続けています。(このあたり、最近日本語で総説を書きました(7)。ご参考までに)

  • Ogihara T, Kim HS, Morinobu T. et al. New evidence for the involvement of oxygen radicals in triggering neonatal chronic lung disease. Pediatr Res. 39:117-9,1996.
  • Ogihara T, Kim HS, Hirano K. et al. Oxidation products of uric acid and ascorbic acid in preterm infants with chronic lung disease. Biol Neonate. 73:24-33,1998.
  • Ogihara T, Hirano K, Morinobu T. et al. Raised concentrations of aldehyde lipid peroxidation products in premature infants with chronic lung disease.
    Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 80:F21-5,1999.
  • Ogihara T, Hirano K, Morinobu T. et al. KL-6, a mucinous glycoprotein, as an indicator of chronic lung disease of the newborn.
    J Pediatr. 137:280-2,2000.
  • Ogihara T, Hirano K, Morinobu T et al. Plasma KL-6 predicts the development and outcome of bronchopulmonary dysplasia. Pediatr Res. 60:613-8, 2006.
  • Oue S, Hiroi M, Ogawa S. et al.
    Association of gastric fluid microbes at birth with severe bronchopulmonary dysplasia.
    Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 94:F17–F22, 2009.
  • 荻原享 【周産期医療とinflammatory response】 Antenatal primingによるCLDの重症化
    周産期医学2009 39巻6号 Page750-760.
  • Inatomi T, Oue S, Ogihara T et al. Antenatal exposure to Ureaplasma species exacerbates bronchopulmonary dysplasia synergistically with subsequent prolonged mechanical ventilation in preterm infants.
    Pediatr Res. 71:267-73, 2012

遊離の鉄による、フリーラジカル傷害、特に新生児仮死との関連について

生体内で、遊離の鉄が存在すると、catastrophicな、フリーラジカル反応の連鎖を引き起こし、組織傷害をもたらす可能性があります。平野医師は、早産児に対する輸血の後に、実際に、血中で遊離の鉄が増加することを、世界で初めて報告しました。その後、仮死児の髄液中でも遊離鉄が上昇することが分かり、鉄による神経傷害について、一連のin vitro studyを行なっています。

  • Hirano K, Morinobu T, Ogihara T. et al. Blood transfusion increases radical promoting non-transferrin bound iron in preterm infants.
    Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 84:F188-93,2001.
  • Ogihara T, Hirano K, Hiroi M. et al. Non-protein-bound transition metals and hydroxyl radical generation in cerebrospinal fluid of newborn infants with hypoxic ischemic encephalopathy. Pediatr Res. 53:594-9,2003.
  • Hiroi M, Ogihara T, Hirano K.et al. Regulation of apoptosis by glutathione redox state in PC12 cells exposed simultaneously to iron and ascorbic acid. Free Radic Biol Med. 38:1057-72,2005.
  • Hasegawa M, Ogihara T, Hiroi M. et al. Hypothermic inhibition of apoptotic pathways for combined neurotoxicity of iron and ascorbic acid in differentiated PC12 cells: Reduction of oxidative stress and maintenance of the glutathione redox state. Brain Res. 1283:1-13, 2009.

新生児期の抗酸化能について

昔から、主にビタミンEをtargetに、酸化ストレスと、抗酸化能についての、研究を行ってきました。近年room air蘇生が過剰な注目を集めており、「酸素」に対する「不当な」風当たりが強くなっています。我々は「新生児の酸化ストレスに対する対応能力」を明らかにすべく、大規模なstudyを行っています。(すでに解決済みであると、誤解されている方もおられるかもしれませんが、実際は今まで一度も、週数別に、総合的に研究されたことはありません)。興味おありでしたら、解説5を参考に。

  • Ogihara T, Miki M, Mino M. et al. Susceptibility of neonatal lipoproteins to oxidative stress. Pediatr Res. 29:39-45,1991.
  • Kaempf DE, Miki M, Ogihara T. et al. Assessment of vitamin E nutritional status in neonates, infants and children--on the basis of alpha-tocopherol levels in blood components and buccal mucosal cells. Int J Vitam Nutr Res. 64:185-91,1994.
  • Kim HS, Arai H, Arita M. et al. Age-related changes of alpha-tocopherol transfer protein expression in rat liver. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 42:11-8, 1996.
  • Yamaoka S, Kim HS, Ogihara T. et al.
    Severe Vitamin E deficiency exacerbates acute hyperoxic lung injury associated with increased oxidative stress and inflammation. Free Radic Res. 42:602-12, 2008.
  • 荻原享 【新生児の慢性肺疾患】 酸素毒性 未熟児医療の前に立ちはだかる巨大な壁
    周産期医学2002 32巻6号 Page735-742

採血時の痛みに対する経口ショ糖麻酔(sucrose analgesia)の効果について

不思議なことに、新生児は、ショ糖を含ませると、痛みに対する反応が低下することが知られています。そこで、小川医師は、厳密なdouble blind designで、手背静脈採血と、踵採血の双方に、ショ糖麻酔をからめてprospectiveなstudyを行ない、イギリス学会誌に公表しました。結果的には、手背静脈採血に熟練すれば、ショ糖を使わなくても、ほとんど痛みを与えずに、採血可能であることが分かりました。この結果を踏まえて、大阪医大では、可能な限り、足底ではなく、手背静脈を選択するようにしています。

  • Ogawa S, Ogihara T, Fujiwara E. et al.  Venepuncture is preferable to heel lance for blood sampling in term neonates. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 90:F432-6, 2005.