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  2. 健康寿命をのばす たかつきモデル
  3. 主任研究員インタビュー②

「疫学研究グループ」メンバーとして本プロジェクトを牽引するのが、玉置淳子教授(衛生学・公衆衛生学Ⅰ・Ⅱ教室)だ。地道なデータ収集と多角的な分析は、診療科をまたいで医学と社会をつなぐユニークなアプローチだ。この記事では、玉置先生へのインタビューを通じて、その方法論を詳しくひもといていく。

医学的・社会学的に病気の要因を分析する「公衆衛生学」

衛生学・公衆衛生学は、法医学や医史学などと共に社会医学系と呼ばれる分野の学問。健康に関するデータを収集・分析し、病気の予防や健康の増進に役立つように研究の成果を社会に還元していく。

公衆衛生学研究では、病気の環境因子と発症の関連性について統計的に調査する「疫学調査」という手法がよく用いられる。たとえば、喫煙者と非喫煙者の肺がん発生率の比較によって喫煙リスクを明らかにしたり、生活習慣病における有酸素運動の効果を示したりとさまざまな成果を挙げてきた。

「たかつきモデル」プロジェクトでは、口腔外科教室、循環器内科教室等との連携のもと、高槻市民の健康診断や食生活などのライフスタイルに関するデータを収集・分析を行う予定だ。

玉置 淳子 教授

玉置先生 今回はライフコース疫学研究ですので、妊婦や乳幼児から高齢者まで、さまざまな年代が対象になります。対象集団の唾液を採取して、口腔内細菌叢の形成過程や特徴を一定期間追跡するコホート研究を行う予定です。

すでにコホート研究の第一弾として「妊婦コホート」を対象とした調査が進んでいる。安定期に入った妊婦の唾液を採取するとともに、生活習慣に関するデータをアンケートで収集。出産後は、定期検診ごとに母・子両方の唾液を採取することにより、母親の口腔内細菌叢の状態が、新生児の口腔内細菌叢の形成にどう関わるのかを調べていくという。

今後は、口腔内の状態にばらつきが出る70代前半を対象とする「高齢者コホート研究」や、高槻商工会議所の協力を得て、働き盛りの年代を対象に行う「職域コホート研究」の実施も予定されている。

玉置先生 特定検診の際に協力をお願いし、同意を得た方たちを大学にお招きして、唾液を採取したり、血管内皮や認知機能を検査させていただきます。高齢者であれば、口腔内の状態と医療費や要介護状態の関わりをみることも目的のひとつ。青壮年については、口腔内細菌叢と動脈硬化の関わりを明らかにし、対策の提言をすることが目標です。

並行する介入研究で、運動と口腔状態の関係を探る

コホート研究と並行して、信州大学大学院医学系研究科 能勢博教授が提唱する「インターバル速歩」を活用した運動介入研究も行う。「インターバル速歩」は、筋肉に負荷をかける”さっさか歩き”と負荷の少ない”ゆっくり歩き“を数分間ずつ繰り返すウォーキング法。この方法は、骨密度の増加や生活習慣病リスクの改善に効果があることが既に明らかになっている。インターバル速歩の実践によるさまざまな数値変化を取るため、40名の対象者に隔週で大学に来てもらい、運動状態の確認を続けているという。

玉置先生 運動介入の前に血液検査を行い、メタボリック症候群の有無、血管内皮の状態、栄養や認知機能などの検査もしています。我々としては、口腔内の炎症との関わりを中心に、「インターバル速歩」導入後の認知機能や噛む力などの変化も見ていきたいと思っています。

5年間に渡り、複数のコホート研究を含むさまざまな疫学調査で得た結果は、衛生学・公衆衛生学教室で慎重な分析を行っていく。手間も時間もかかる地道な研究だが、玉置先生は「与えられたチャンスを活かして成果を出すことは研究者の責務」だと言い切る。

玉置先生 幸いなことに、衛生学・公衆衛生学教室には、疫学調査の経験豊富なスタッフがおりますし、なんといっても今回のプロジェクトは産官学連携で研究協力を行う協定も締結されています。また、本プロジェクトは、学長リーダーシップのもとで全学を挙げて取り組む事業。この機会を活かして、我々が担当する疫学調査研究についてきっちりデータを重ねていきたいと思います。

さらに、地域ごとの学校数や公園数と児童の肥満状態などを調査し、健康施策に役立つエビデンスを明らかにする「データの見える化」も予定されている。「たかつきモデル」は、こうした各種データの地道な積み重ねに基づいて構築されていくのだ。

データの蓄積でオーラルケアの効果を鮮明にする

複数の調査が同時進行する、「たかつきモデル」プロジェクトの疫学調査の特徴のひとつは、『未病(発病には至っていないが軽い症状がある)』の段階にある人を対象としたコホート研究を行うこと。もうひとつは、循環器疾患や糖尿病などの患者と未病の段階にある人の口腔内細菌叢と比較することで、疾患特異的な口腔内細菌を明らかにしていくことだ。

玉置先生 一方は病院内で、一方は一般集団で調査を行い、早期の段階で口腔内細菌と病気の関係を見ることができるようにデザインしました。「インターバル速歩」を組み込んだのは、すでに確立した手法で口腔内を特化して見るのも面白いし、ゆくゆくは地域の健康づくりに展開することも期待してのことです。

現在、生活習慣病の予防といえば「ブレスローの7つの健康習慣」がよく知られている。適正な睡眠時間、喫煙をしない、適性体重の維持、飲酒を控える、定期的な運動、毎朝の朝食、間食をしない——これらを実践するかどうかで、その後の寿命を大きく左右すると言われるものだ。

これらの次に注目されるであろう生活習慣病の予防方法が、オーラルケアではないか、と玉置先生は言う。

玉置先生 口腔内の状態や噛む力は改善することができる。多くの人が取り組みやすいという点でも、オーラルケアは生活習慣病を予防する有効な方法となるのではないかと捉えています。

「たかつきモデル」プロジェクトでは、疾患特異的な細菌種を同定するスクリーニングキットの開発や、細菌種を抑制するバイオフィルムを地域企業との産学連携により事業化することも視野に入れている。「たかつきモデル」は、未来の生活習慣病予防のかたちを生みだすことを目指しながら進んでいく。