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臨床現場にフィードバックする薬剤部研究

薬物治療モニタリングからよりよい服薬指導へ

Episode
009
Published
Keywords
  • 臨床現場
  • 薬剤師
  • クリニカル・クエスチョン
  • DAP
  • PHT

Introduction

 病院の薬剤部は、調剤・製剤業務や医薬品の管理、服薬指導などを担う部署。一般的には「研究」機関ではない。
 
しかし、大阪医科大学病院の薬剤部では、大阪医科大学研究支援センターの旗振りのもと、大阪薬科大学、大阪大谷大学などの医療・研究機関と連携し、共同研究プロジェクト「基礎および臨床データを用いたPharmacokinetics解析および医薬品安全性の評価に関する研究」を実施。臨床現場に日々立ち続ける病院薬剤師ならではの切り口で、さまざまなテーマの研究が行われている。
 
本記事では、同プロジェクトから特徴的な研究テーマを取り上げて、大阪医科大学病院薬剤部をとりまくトランスレーショナルリサーチの形を紹介したい。
 
 

臨床現場は「クリニカル・クエスチョン」のかたまり

医薬品に関する使用上の注意や、医師・薬剤師向けの製品情報を記載する「添付文書」。薬の副作用や相互作用、代謝・排泄などの体内動態、その他投与時の注意事項が詳細に説明されているが、臨床現場においては 「では、具体的にどのように『注意』して対応すればよいのか?」という疑問が生じることがあるという。

薬剤部の山田智之先生は、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring, TDM)業務に携わるなかで、抗生物質の薬物動態・薬力学(Pharmacokinetics/Pharmacodynamics、PK/PD)に基づく、薬剤投与設計を実践。なかでも、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬・ダプトマイシン(DAP)の適用量について研究として発展させていった。

山田 智之 先生

山田先生 ダプトマイシンの治療効果をより高めるためには、高用量の投与が推奨されています。一方で、高用量の投与によるプロトロンビン時間(PT)の偽延長やクレアチンキナーゼ(CPK)の上昇が報告されています。この2つの注意点、副作用をPK/PDの観点から臨床的な解決策を検討しようと考えたのです。

山田先生らによる研究では、ダプトマイシンを高用量投与する場合は、直前の採血でPTを評価することが望ましいことが明らかになった。また、20症例の血中濃度を測定してCPK上昇との関連を確認したところ、DAPの高用量投与が必要な症例では、厳密なCPKモニタリングが重要だと考えられたという。こうした病院内のデータを用いた研究は、何よりも大阪医科大学病院での治療効果を高めることに役立つ。

山田先生 抗生物質は細菌に対する薬ですが、細菌には地域性があるんです。たとえば「MRSA」を見たとき、オランダではメチシリン耐性をもつ黄色ブドウ球菌は1%以下ですが、日本では50%程度とされています。同じ国内であっても、大阪と東京、北海道を比べると耐性菌の割合は異なりますし、地域や病院単位で、細菌の感受性パターンを知っておく必要があるんです。まずは、当院にフィードバックすることを第一に考えて、研究を組み立てることを常に意識しています。

外部との連携で研究の幅を広げる

同じく薬剤部の鈴木薫先生は、抗てんかん薬・フェニトイン(PHT)を経腸栄養剤と併用する際に、血中のPHT濃度が低下することが報告されていることに注目。大阪大谷大学と連携してその原因を究明する研究を行った。

鈴木 薫 先生

鈴木先生 薬剤部は研究機関ではないので、独自の研究プロジェクトを立ち上げても研究費を得ることはできません。しかし、外部の医療機関と連携することで、大阪医科大学研究支援センターが主導する「共同研究」の枠組みで予算を得られるんです。また、実験施設をもたない薬剤部にはできない実験を外部に依頼することも可能になります。

本研究では、薬剤部が臨床現場で生まれた疑問をもとにアイデアを出し、大阪大谷大学に実験を依頼するかたちで進められたという。

鈴木先生 経腸栄養剤と併用するとフェニトインの血中濃度が低下することは、ずいぶん前に関連学会で指摘されていたのですが、添付文書には「原因不明である」と書かれていたのです。そこで「胃の中にフェニトインと経腸栄養剤が同時にあると血中濃度が低下するのか」「経鼻チューブに薬剤が吸着するからダメなのか」を確認するための実験を大阪大谷大学に依頼しました。

チューブの実験では、薬剤の吸着が見られなかったことから、さらに動物実験を実施。「胃の中にフェニトインと経腸栄養剤が同時にあると血中濃度が低下する」という結論が得られた。そこで、臨床の薬剤師は患者に対して「フェニトインと経腸栄養剤の投与時間をずらす」という具体的な服薬指導を行えるようになったという。

臨床現場の疑問が薬学研究の可能性をひらく

日々の薬剤業務から生まれる問いを研究へと発展させてエビデンスが得られれば、院内の処方提案に落とし込んで、治療効率を高めることにもつながっていく。また、院内だけでなく広く世の中にも役立ててもらうこともできる。

山田先生 臨床現場で医師や看護師、患者さんから受ける質問はクリニカル・クエスチョン(臨床的疑問)のかたまりです。多くの薬剤師はそれを消化しきれずに過ごしていますが、いかに自分たちでクリニカル・クエスチョンを拾い上げて研究につなげて、一つひとつ解決していくかが大切だと思います。

来年度には、大阪医科大学と大阪薬科大学は、大阪医科薬科大学として統合される予定だ。薬剤部の薬剤師が最先端の薬学研究リソースにつながる機会が増えることは、今後の共同研究プロジェクトの拡大にプラスに働く可能性もある。

鈴木先生 たとえば、現在の大阪薬科大学の図書館にある論文データに、自分の机からアクセスできるようになれば、より良い研究環境に恵まれることになります。現在でも、大阪医科大学の図書館にあるすぐれた医学論文データを検索できることは大きな強みなのですが、さらに薬学系の論文を調べられるようになれば良いですね。また、薬学部のバックアップがあれば薬剤部の薬剤師が、実務に当たりながら研究マインドを持ち続けることが当たり前になっていく可能性も高くなると思います。

薬学部と病院の連携によって、臨床現場からはじまる研究がより深められると同時に、薬学部で学ぶ学生の将来の可能性を広げていくーーそんな未来が期待されている。