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若手でつなぐバイオバンク

診療科を越えた連携で、医学の未来を加速する

Episode
004
Published
Keywords
  • がん
  • 分子生物学
  • 検体
  • Translational Research
  • 若手研究者

Introduction

ことのはじまりは2年前。大阪医科大学の「研究拠点育成奨励助成金」公募プレゼンの席だった。アメリカ留学から一時帰国していた泌尿器科学の小村和正先生と、岐阜大学へ国内留学していた一般・消化器外科学の谷口高平先生は、偶然にもほぼ同じ内容の「バイオバンクを軸とした科を横断する研究部門の創設」を提案しようとしていた。

「日本有数の手術数」を基礎研究に活かすには?

小村 和正 先生

小村先生 大阪医科大学附属病院は、消化器外科では大腸がん、腎泌尿器外科では膀胱がんの手術件数が日本有数なんです。日本中から大勢の患者さんが集まる貴重な環境を、新しい治療法の発見につなげていくには、患者さんの検体を分子生物学的な研究に回していく仕組みが必要です。僕も谷口先生も、何とかしてその仕組みを作りたかった。

手術で切除された組織、血液、尿などのサンプル(検体)や診療情報を収集して保管・管理し、医学研究に活用する仕組みが『バイオバンク』だ。日本では、国立の医療施設や研究機関が構築するバイオバンクがよく知られている。

谷口 高平 先生

谷口先生 お互いにまったく知らずに同じようなプレゼンを用意していたので驚きました。全く違うところで、全く違う研究をしていたけれど、培養細胞ではなく実際の患者さんの検体を使って研究することがめちゃくちゃ大事だという思いはぴったり同じでした。審査委員の方々からも「一緒にやったらどうですか?」と言われました。

「バイオバンク基盤型OMC-TR(トランスレーショナル・リサーチ)センター」の構想が「研究拠点育成奨励助成金」プロジェクトに選ばれたとき、小村先生はまだニューヨークのMemorial Sloan Kettering Cancer Centerに留学中だったという。プロジェクトは谷口先生を中心に立ち上がり、小村先生はSkypeで会議に参加。思いをつなぐプロジェクトは国をまたぐかたちで動き始めたのだった。

大阪医科大学のバイオバンクは「質」で勝負。

国が主導するバイオバンクの強みは、検体数の多さである。ふたりは、さまざまなバイオバンクの資料を集め、大阪医科大学でバイオバンクを構築する強みを検討。まずは、一般・消化器外科学教室と泌尿器科学教室が連携するところから一歩を踏み出した。

谷口先生 僕らの強みは、同じプロトコールで高品質なサンプルを集められること。他の科においても汎用性の高いシステムの構築を目指しました。

大阪医科大学のバイオバンクは、手術検体から得られる組織を中心にして形成。手術検体からのサンプルを用いることによって、研究の学術的価値の向上も期待できる。将来的には、手術検体から核酸サンプルを全ゲノムシーケンス(またはエクソンシーケンス)、RNAシーケンスで分子プロファイルを行うことも視野に入れているという。

このバイオバンクは、「バイオバンク基盤型OMC-TRセンター」のまさに“基盤”であり、科を横断するとともに、基礎研究から臨床への応用への橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を可能にする要となる。

基礎から臨床への”橋渡し”が医学を加速させる

そもそも、小村先生と谷口先生が、バイオバンクを基盤とした橋渡し研究の必要性を痛感したのは、医師としての基礎研究に取り組むなかでのことだったという。

谷口先生 僕は、大腸がんに関わる重要ながん遺伝子を発見したとき、幸運にも収集されていた患者さんの検体を使って、胃がんや膀胱がんにも機能しているかどうかをすぐに確認できました。しかし、一般的に基礎研究では、培養細胞で実験をしてから「本当の患者さんではどうなっているのか」を確認することが多いです。最初から患者さんの検体にアクセスすることで、基礎研究から臨床応用までのプロセスをスピードアップできるんです。

最初から患者さんの検体にアクセスすることで、基礎研究から臨床応用までのプロセスをスピードアップできるんです。

谷口 高平 助教

バイオバンク基盤型OMC-TRセンターが目指す大きなゴールは、非常にシンプル。医師として「今は治らない病気を治す」ことだと小村先生は語る。

小村先生 医師の研究というのは、具体的に「こういう患者さんを治したい」との思いから始まるものです。治療や手術だけでは治らない病気を治すために、今はまだない答えを探したい。そのために、科を越えて「これなら治るかもしれない」という種を見つける研究の場をつくりたい。そして、次の世代にもつないでいくことが大きなゴールです。

また、形成されたバイオバンクは、岐阜大学や東京大学との連携による創薬・開発にも活用されることが決まっている。将来的には、バイオバンク基盤型OMC-TRセンターから、医工薬連携によるイノベーションも生まれるかもしれない。

若手研究者へのエールが追い風に

医師として多忙な日々を送りながら、こうした研究プロジェクトに取り組むのは簡単なことではない。それでも、一歩また一歩と前に進んでいくことができるのは、大学に満ちている「若手研究者をバックアップしよう」という気風である。

谷口先生 もしも大学内に、「若いやつが勝手なことを!」という逆風が吹き荒れていたら、心が折れていたかもしれません。でも、大阪医科大学の先生方は若手を応援してくださいます。どの会議に出ても「がんばれ」と本当に温かい声をかけていただけたので、ここまでやって来られました。

小村先生 僕もそうでしたが、高校生のみなさんはきっと、勉強するなかで研究に興味を持つことがあると思うんですね。でも、実際のところ医者になるための勉強と研究はちょっと違う。医者になってからは、周囲の理解がないと「研究をさせてください」と言いづらい。ところが、大阪医科大学は若い先生が「研究したい」と言えば、なんとかサポートしようとする流れがあります。

また、診療科間を横断するしくみをつくるうえでは、大阪医科大学の特色のひとつである「診療科間の風通しの良さ」も相乗効果を生んでいる。


谷口先生 どの科に話を持って行っても、僕らと同世代の先生方がいて、情熱を持って協力してくださるんです。すでに「みんなでやろう!」という感じになっていますね。また、このプロジェクトは、お互いにどんな研究をしているのかを知り合う良い機会にもなっていて、「他のことでも何か一緒にできないだろうか」という機運も生まれています。

バイオバンク基盤型OMC-TRセンターが稼働し始めれば、がんの早期診断が可能になったり、新たな治療戦略が生まれることが期待される。数年後には、対象とするがんも広がり、より包括的な研究基盤に成長しているかもしれない。

そうなったとき、バイオバンク基盤型OMC-TRセンターを活用して研究をしているのは、これから大阪医科大学で学んでみようと考えているあなたかもしれない。

2018年1月30日、トランスレーショナルリサーチ部門が設立され、初代部門長に小野富三人教授 (生理学教室)、副部門長に小村和正先生 (泌尿器科学教室)、谷口高平先生 (一般・消化器外科学教室、救急医学教室)が就任しました。

トランスレーショナルリサーチ部門