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異分野の先端研究を学び合う会

基礎医学×臨床医学のブレーンストーミング

Episode
008
Published
Keywords
  • 学び合い
  • 基礎医学
  • 臨床医学
  • 課外活動
  • 女性研究者

Introduction

心臓血管外科、生理学、神経内科、生物学、眼科、解剖学…
一見まったく違う専門を持つ研究者たちが、大学を飛び出して大阪・梅田のナレッジサロンに集う。共通するのは、医学系研究者としての知的好奇心と、医学教育に関わる大学教員であること。
 
「自分たちの領域だけで研究・交流を完結しない、バランス感覚が必要」と語るのは、発起人の神吉佐智子先生(胸部外科学教室)。この会の様子を追った。

終わらない質問、白熱するディスカッション

現在「女性研究者の会」は、メンバーの一人が会員であるグランフラント大阪内「ナレッジサロン」にて、隔月で開催されている。多忙な研究者同士で日程を合わせるのは至難の技だが、全員がこの会を楽しみにしているという。この日は、初参加の3人を加えて8人という最大人数での開催だ。

この日の話題は、植物の刺激受容とその応答。「植物は、感じて動いている」という演題が映し出されるやいなや、「植物は、光以外も感じているんですか?」と質問が飛びだした。

シロイヌナズナ

「窓際の植物が光の方向に成長していくように、植物は光に応答することはよく知られています。加えて、接触刺激、重力、湿度温度、傷害や病原菌の感染などにも応答します。今回は、まず接触刺激応答についてお話します」。

発表者の先生は、「シロイヌナズナを1日2回触って育てると、まったく触らず育てたものに比べて背丈が低くがっしりと太くなる」と写真で説明。このような反応は、「接触形態形成」と呼ばれ、小麦の倒伏防止など農業にも応用されているという。

グラフや動画を用いた解説は続く。「植物細胞は、さまざまな外界からの刺激により、サイトソルCa2+濃度を上昇させます。葉に青色光を当てると上がりますし、接触刺激を与えた場合にはもっと大きく上がります。Ca2+濃度が上がることで発現するとされる遺伝子があることもわかりつつあります」。

「気になることがあるので、もう一度再生していただけますか?」

Ca2+濃度の上昇の仕方や速度について、全員の目で詳細にグラフや動画を分析していく。
「2度Ca2+濃度が上昇しているけれど、それぞれのCa2+は細胞外から?それとも細胞内Ca2+ストアから?」
「葉の大きさによって広がり方が違うのでは?」
次々に現れる論点にディスカッションの花が咲き、もはや発表は先に進まない。

神吉先生が「Ca2+シグナルは各自の分野に関わりのある物質。各分野のCa2+シグナルの話を持ち寄る会も面白いかもしれませんね」と言うと、一同が「それも面白そう」と頷く。このときにはもう、2時間が過ぎようとしていた。

「続きは、食事をしながら話しましょう」と、いったんお開きに。女性研究者の会は第2ラウンドへと続くのであった。

心ゆくまで議論する

この会の発端は、ある「打ち上げ」の場だったそうだ。そこで意気投合した4人が立ち上げたのが、『大阪医大女性研究者の会』。随時、新しいメンバーを増やしながら継続している。発起人の神吉佐智子先生は、「内実は、科学ネタで喋る女子会」と言うが、この会のパッションは医学の最先端研究へ向かっている。

神吉 佐智子 助教

神吉先生 「毎回ひとりが発表+質疑応答で2時間と決めていますが、参加者のバックグラウンドが違うので、どんどん質問が出て全然発表が進まない(笑)。発表内容の2割も進まないうちに時間切れになることもあります。学会などでは話を遡って訊けないけれど、この場ではどんどん聞いて何時間話してもいい。それは、研究者にとっては嬉しいことです。」

他の人の研究を聞く会といっても、よくある「一方通行の講義を聴いて、ちょこちょこ質問が出て終わり」という空気とは正反対の、ブレーンストーミングの会なのだ。

神吉先生 「私たちの会では、最前線で研究している人から直接最新の情報を教えてもらうことができます。こうした知的交流を進めるなかで、わからないままに放置されていた領域への理解が深まることもあります。論文を読んだだけではわからない具体的な実験方法をリアルに教えてもらえるというメリットもありますね」。

勉強仲間のつながりから、臨床現場の疾患理解へ

大動脈デーでの啓発講演に臨む神吉先生

こうした集まりの価値として、「人的交流」が広がるという点も見逃せない。

神吉先生 「最近やっと認知度の上がってきた大動脈解離・大動脈瘤破裂というのは、一般的には動脈硬化が原因で70歳以上で発症することが多いのですが、私の専門は働き盛りの30-40代でも大動脈解離・大動脈瘤破裂を起こしうる難病です。この病気の原因が、次世代シーケンサーの登場によって分子レベルで解明されつつあり、治療法も進歩しつつあります。この領域の第一人者(Dr. Lynn Sakai)のラボに、会の仲間である二木先生(解剖学教室)のご友人が留学していたそうです。その先生もご紹介いただきました。」

解明が進む細胞外マトリックス

その二木先生が研究するのは細胞外マトリックスである「基底膜」。細胞外マトリックスは、発生、創傷治癒、がんの転移や神経障害など病気の発症や進展との関連が注目されている。

神吉先生 「大動脈も、細胞と細胞外マトリックスでできています。細胞外マトリックスというのは、私の経験では「実態がわかりにくいもの」でした。それが今、あらたな研究手法の開発によって「わかる」ようになってきている。こういう場がないと、違う領域の最先端の情報にたどり着くのは本当に難しいですが、知的交流をどんどん進めることによって、忘れていた領域・わからなくて放置されていた領域の理解が深まるんです。」

自分が所属する教室や医局の中だけで研究・交流が完結してしまっては不十分だ、と神吉先生は語る。こうした会の存在は、臨床医学系の研究者が「外」に出ていくための突破口になる。

基礎と臨床の交流から生まれるもの

一方で、基礎医学系教室から参加する、初期メンバーの一人は、「臨床の視点から基礎研究への意見を聞ける貴重な機会」と捉えている。

「この会に参加する臨床の先生方は基礎医学研究に興味と関心があり、とても的確で参考になる質問や意見をいただけるのでありがたいです。これまでは、文献を通して病気や治療との関連を考えていましたが、実際に携わっておられる臨床の視点で具体的なご指摘をいただくと今後の研究のアイデアにもつながります」。

また、他の先生方の研究の発表を聞くなかで、お互いに意外なところでリンクする部分が見つかることもあるそうだ。

「たとえば、二木先生が網膜を使って研究されている細胞外マトリックスは、私が対象にしている動物の骨格筋細胞の周囲にもあり、神吉先生の研究にも関係していることがわかりました。お互いの研究に思わぬ共通項が見つかることが刺激的だし、刺激的だからこそ楽しいのです」。

小さな集まりがたくさん生まれたらいい

この会は少人数で続いているが、存在を知って「私も参加したい!」という声は少なくないだろう。会のこれからの展望について、神吉先生はこう語る。

神吉先生 「今後はもっと大々的にやりたい、という思いはあります。もっと他の人の話も聞きたいし、学生視点の質問も欲しい。ただ、少人数でないとできない面もあるので、年に数回は大きめの会を開催するなど、発展の仕方を考えないといけない」

このような場は、形だけ真似して成り立つほど簡単なものではないだろう。それでも、多忙な彼女たちが会を続ける原動力となっているのは、「知的好奇心」。研究者たちが常に持っているであろう「最先端を知りたい」「広く知りたい」という思いは、これからさらに突破口を広げていくのではないだろうか。