大腸がんの治療がわかる名医のWebサイト

大腸疾患の外科治療について

● 大腸とその区分について  

大腸は、食道・胃・十二指腸・小腸から連続し、右下腹部から時計回りに腹部を一周して肛門へとつながっています。長さは1.5mほどで、水分の吸収と便の貯留・排出などが主な機能です。下図のごとく、大腸は、口側から盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸とならぶ「結腸」と、これに続いて肛門にいたる「直腸」に大きく分けられます。とくに直腸は便の貯留と排出に非常に重要な役割を担っています。

● 外科治療(手術)の対象となる主な大腸疾患  

外科治療(手術)の対象となることが最も多いのは、大腸がんです。良性疾患では、炎症の反復・膿瘍形成・狭窄を来した大腸憩室炎、家族性大腸腺腫症および内科的治療抵抗性の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などが手術対象となります。

● 大腸がんの治療について  

大腸がんはこれを放置すれば大きくなって下血(肛門から出血する)や腸閉塞(腸がつまって便やおならがでなくなる)を起こしてきます(写真1,2)。このため治療が必要ですが、お薬や放射線などの治療だけでは治すことができません。がんが大腸壁の粘膜内(粘膜下層内でも浅い部分)にとどまっていれば大腸内視鏡で切除する方法(内視鏡的切除:ポリペクトミー/EMR/ESD)が有用ですが、粘膜下層以深に深く拡がっている場合には周囲のリンパ節と一緒に腸切除をする必要があります。とくに、胸部レントゲン検査、腹部CT検査などで肺や肝臓などへの遠隔転移がなく、心・肺・肝・腎機能などの全身状態にも重篤な異常所見を認めず全身麻酔に耐えられると判断されれば、現在の医学的知見ではまず手術により大腸がんを摘除することが最も有効な治療手段と考えられています。

写真1 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)でみた進行大腸がん(がんから出血している写真2注腸検査でみた進行大腸がん(がんのために腸がつまりかかっている)

● 大腸がんの手術について  

大腸がんは、転移して拡がっていく悪性腫瘍であるために、転移しない良性腫瘍のように腫瘍の部分だけを摘除しても治す手術にはなりにくいのです。

転移には、
1)がんが、その存在する部分の腸に分布する血管内に侵入して肝臓や肺などの遠隔臓器へ拡がる血行性転移、
2)がんが、その存在する部分の腸に分布する血管周囲のリンパ節を中心方向に伝わって拡がるリンパ節転移、
3)がんが、その部分の腸管壁を破って腹腔内(腸の外でお腹の中)腹膜に拡がる腹膜転移、
4)がんが、腸管壁を破って隣接する他臓器に拡がる他臓器浸潤、
5)がんが、腸管内で周囲に拡がる管腔内転移
があげられます(図1)。

  1)の遠隔転移、3)の腹膜転移や4)の他臓器浸潤が高度であれば手術だけでは十分な治療ができないことも多いのですが、これらがないような程度であれば、がんの手術(がんを周囲の腸管・腸間膜内のリンパ節とともに一括切除すること)を行うことが最も有効とされています(図2)。なお、1)の遠隔転移、3)の腹膜転移や4)の他臓器浸潤があっても場所・個数や程度によって、初回に大腸の手術と同時に手術して取りきれる場合、抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療を併用したのちに手術で取りきれるようになる場合などがあり、初回治療を受けられる前に個々のケースを十分に検討しておくことが重要です。また、具体的な切除範囲などの詳細については、がんの部位・進行度や全身状態などによって異なります。
  したがいまして、セカンドオピニオンも含めて大腸がん治療の専門医に相談されることをお勧めします。

図1 大腸がんの転移について大腸がんの主な転移には、@肝臓や肺などへの血行性転移、A支配血管周囲のリンパ節に沿って拡がるリンパ節転移、B腸管壁を破ってお腹の中へ拡がる腹膜転移、C腸管壁を破って隣接する他臓器(膀胱など)に拡がる他臓器浸潤などがあります 図2 大腸がんの手術の基本がんを周囲の腸管・腸間膜内のリンパ節とともに一括切除すること

● 麻酔を含めた手術の危険性について  

手術を行うには、全身麻酔(気管へチューブを挿入して麻酔をかける)が必要です。手術前に検査をして心・肺・肝・腎機能などの全身状態に重篤な異常所見を認めず、全身麻酔に耐えられるかどうかを判定します。しかし、実際に全身麻酔をかけた際、さらに続いて手術をした際に心・肺・肝・腎機能などの全身状態に大きな影響が出る場合があります。危険な不整脈などの重篤な変化が起これば手術を中止せざるを得ない場合もあります。また、潜在する動脈硬化などによる血栓が脳や心臓や肺などに飛んで術中・術後に脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などの重篤な状態に陥ることも稀にあります。  
手術中の偶発症(起きると困ること)には出血、尿管や腸管などの臓器損傷などがあり、輸血や損傷部の修復などが必要になることがあります。とくに、大腸がんの進行度が高度で血管、尿管や腸管などの臓器にがんがおよんでいる場合には、これらの偶発症の危険性が高くなります。  

なお、万一このようなことが起こった場合には適切な対処が必要です。 したがいまして、麻酔科や関連各科とも連携のとれた大腸がん手術実績の豊富な病院での治療を受けられることをお勧めします。

● 術後合併症について  

手術後には以下の合併症(お薬でいう副作用)が起こることがあります。

  • 術後出血  
    術後に腹腔内(お腹の中)に出血が起これば、再手術をして止血(出血を止める)処置が必要になることがあります。また、吻合部(腸と腸を縫い合わせたところ)からの出血があれば、大腸内視鏡による内視鏡的止血術や再手術による止血が必要になることがあります。なお、出血量が多ければ輸血を要することもあります。
  • 縫合不全  
    術後に縫合不全(腸と腸をつないだ部分がうまくつながらず腸液が腸の外でお腹の中に漏れること)が起こると、長期の絶食や体外からのドレナージ(CTやエコーなどで見ながらお腹の中に漏れた腸液を外へ出すチューブを入れる処置)などが必要になることがあります。さらに、その程度がひどい場合には再手術をして腹腔内洗浄(お腹の中を洗うこと)し、一時的に人工肛門(腸の縫合部より口側の腸をお腹の外へ出すこと)を作り、腹腔内ドレナージ(お腹の中にチューブを入れて汚い腸液などをお腹の外に出すこと)が必要になることもあります。この場合の人工肛門は、直腸がんの切除で肛門をくり抜いたために必要になる永久人工肛門と違います。つまり、再手術後に縫合不全が治って肛門機能が良く、再発もなければ3〜6ヶ月後に人工肛門を閉鎖する手術を行えば便がもとの肛門から出るようになります。
  • 感染  
    手術後には体力、免疫力が落ちるため、細菌などに対する抵抗力が弱くなって感染を起こすことがあります。とくに、お腹の中で感染が起こって膿瘍(うみ)がたまると、ドレナージ(うみを外へ出してやる処置)が必要になることがあります。他に、腸炎を起こしたり、お腹の傷が膿んだりして点滴や傷の処置が長引くこともあります。
  • 腸閉塞  
    術後は小腸などの動きが悪くなる腸管麻痺が一時的におこりますが、長引くこともあります。また、小腸などが手術で切除されたスペースにはまり込んだり、捻れたり、お腹の傷に癒着したりなどして腸閉塞(腸液がうまくながれなくなること)が起こることがあります。この場合には鼻から胃や小腸にチューブを入れる処置が必要になったり、再手術して腸の状態を良くしてやることが必要になります。とくに、腸が捻れたりして虚血(腸の血行が悪くなること)が疑われる場合には緊急で再手術し、壊死腸管(腐っている腸管)があれば、腸管切除が必要になることもあります。
  • ストレス  
    術後のストレスで胃や十二指腸に潰瘍が出来て出血や穿孔(穴が開く)したり、とくに高齢者では譫妄(状態がわからなくなって不隠となる)がおこることがあります。内視鏡治療やお薬などで対処します。
  • ◇ がんの部位・進行度や併存疾患(持病)の程度や全身状態などによって上記以外の合併症が起こることもあります。  

なお、万一以上のような合併症が起こった場合には適切な対処が必要です。  
また、近年、高齢化が急速に進む中で重篤な併存疾患(持病)があったり、体力・免疫力が著しく低下しているために、術後に心・肺・肝・腎機能などの全身状態に大きな悪影響を受けて命にかかわるような状態に陥ることにも注意する必要性が高まっています。しかし、手術を行うことは極めて危険とわかっていても、大腸がんによる出血や腸閉塞(腸がつまる)などの危機的症状が差し迫っていれば、がんの部分だけの切除や人工肛門造設など、できるだけ身体への負担は減らすような術式に替えて大腸がんによる危機的状況(出血や腸閉塞)を乗り切る手術が必要な場合もままあります。  

以上のように、合併症が起こった場合の適切な対処だけでなく、起こる可能性が高い場合の手術の必要性、術式、危険性の程度、他の治療の選択肢と予想される治療経過や治療の限界などについても病状説明の中で十分理解いただいたうえでご本人やご家族が手術を選択されるかどうかを確認しておくことがますます重要となってきています。 したがいまして、高齢患者や重篤な併存疾患患者も含めた大腸がん手術実績の豊富な病院での治療を受けられることをお勧めします。

● 大腸がんの手術後の追加治療について  

肝臓などへの遠隔転移や腹膜転移の術前・術中精査に加えて、手術で切除した組織を顕微鏡で詳細に調べる病理組織検査を行ってがんの種類、深さ、リンパ節転移の有無などをチェックし、がんの最終的な病期(進行度)が決まります。  

病期(進行度)は、抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療などの追加治療の必要性や予後の判断基準となります。

● 大腸がんに対する新しい手術法について

大腸がんに対する新しい手術法について以下に説明します。

■ 腹腔鏡下大腸がん手術
大腸がんでは、がんが大腸壁の粘膜内や粘膜下層内でも浅い部分にとどまった程度の早期がんであれば、転移の危険性がないため、肛門から挿入した大腸内視鏡で切除する方法(内視鏡的切除:ポリペクトミー/EMR/ESD)などが有用で、これで治療が完了します。  
しかし、早期がんでも粘膜下層深く拡がっている場合などやこれより深部におよぶ進行癌に対しては手術(周囲のリンパ節と一緒に腸切除)をする必要があります。  

大腸がんの手術はこれまで開腹手術(お腹の真ん中などを20cm程度切り開いてする手術)によって行われてきましたが、近年お腹に5mmから1cmの小さな穴のような創(傷)を5ヶ所ほどつけて炭酸ガスでお腹を膨らませてお腹の中に手術する空間を作り、小さな創から入れた腹腔鏡(お腹のカメラ)と器械を用いて大腸を切除して3〜6cmの小切開創から摘出し(取り出し)、切離された腸をお腹の外か中で吻合する(つなぐ)「腹腔鏡下大腸がん手術」が保険適応となりました(写真3)。腹腔鏡下手術では、腹腔鏡の近接視・拡大視効果により、肉眼では見えにくい細い神経なども明瞭に観察できますので、神経の温存などを適切に行いやすくなります(写真4)。また、腹腔鏡下手術では傷が小さくて分散しているため、従来のお腹を大きく切って大腸を切除する開腹手術に比べて、術後の痛みや癒着が少なく、手術からの回復が早くて腸閉塞や創感染などの後遺症が少ないなどの利点があります(写真5,表1)。

写真3 腹腔鏡下大腸切除術気腹(炭酸ガスでお腹をふくらませてお腹の中に手術する空間を作り)のもとに、腹腔鏡(カメラ)や特殊なハサミ、電気メスなどを小さな穴(ポート)からお腹に入れて手術を行います。

写真4 腹腔鏡下大腸切除術腹腔鏡下手術では、腹腔鏡の近接視・拡大視効果により、肉眼では見えにくい細い神経なども明瞭に観察できますので、神経(左腰内臓神経:男性の性機能(射精)を司る)などの温存も適切に行いやすくなります。

写真5 開腹大腸手術(左)と腹腔鏡下大腸手術(右)の傷の比較


  開腹手術 腹腔鏡下手術
術後入院日数 2〜4週間 1〜2週間
通常の生活に戻れるまで 4〜6週間 2〜3週間
手術の傷跡 15〜20cm 5mm〜1cm-4〜5カ所
3〜6cm-1カ所
手術後の痛み 約7日間 約3日間

ただし、腹腔鏡下大腸手術は気腹下(炭酸ガスでお腹を膨らませて)に行いますので気腹の際に腸や血管を傷つける危険性があります。また、手術中に高炭酸ガス血症になることがあります。これらに対しては、直視下小開腹法で腸や血管などの損傷を避け、手術中は血液の中の炭酸ガス濃度を監視して気腹圧を下げるなどして対処します。また、手術台ごと頭を低くするような体位をとることもありますが、心臓や肺など全身状態を監視して全身状態への影響が少ない程度にします。なお、血管や臓器などから出血したり、腸管や尿管などの損傷がおこったり、高度な癒着やがん浸潤などがあって腹腔鏡下手術で対応できないこともあります。このような場合には、速やかに開腹手術に切り替えて適切に対応し、その時の患者さんにとってベストの手術を行います。  

とくに、腹腔鏡下手術には、触診が行えない、視野が狭くて全体像を捉えにくい、2次元モニター上の手術で深部感覚に乏しい、ワーキング・スペースが狭い、器具とその操作方向に制限が多い、わずかな出血でも術野が著しく劣化する、止血には開腹手術以上に時間や労力を要するなどの問題点があるため、その技術の修得には十分なトレーニングが必要です。  
また、腹腔鏡下大腸がん手術は、がんの部位・進行度やお腹の中の状態(癒着や肥満)などによって難易度が違います。盲腸・上行結腸やS状結腸のがんに対しては術式も定型化してきており、腹腔鏡下大腸がん手術の基本部位と言えます。これに対して、横行結腸・下行結腸や直腸のがんに対する腹腔鏡下手術では的確なリンパ節郭清と血管処理、適切な腸管の剥離授動と切除などの面で難易度が高いとされています。また、お腹の中の癒着や内臓脂肪が高度な場合も手術が困難となります。さらに、進行大腸がんに対しては再発を始めとする長期予後の問題があります。  

以上のように、腹腔鏡下大腸がん手術を安全かつ的確に施行するには高度な技術と豊富な経験を要求されますので、腹腔鏡下大腸がん手術実績の豊富な病院での治療を受けられることをお勧めします。

■ 経肛門的括約筋部分切除を併用した超低位直腸切除術 (究極の肛門温存術)
  もうひとつの話題は、「究極の肛門温存術」です。  これまで大腸がんのなかでもとくに肛門に近い直腸がんには一律に肛門も切除する直腸切断術が施行され、永久人工肛門を付けることを余儀なくされていました。近年、いままでなら永久人工肛門となっていた直腸がんに対しても肛門縁から3〜4cmほど距離があって一定の条件を充たせば、自分の肛門を残せる超低位直腸切除術(「究極の肛門温存術」)が行われるようになってきました。この手術でも縫合不全を予防して良好な肛門機能を温存するため一時的な人工肛門を付けることが多いですが、再発の有無や肛門機能を評価して良ければ半年後位をめどに一時的人工肛門を戻す手術をしますので、自分の肛門からの自然排便が可能となります。  
この究極の肛門温存手術も高度な技術と豊富な経験を要することと、再発や肛門機能などに問題があるため、実績のある病院を選ばれることをお勧めします。