大腸疾患の外科治療について

大腸がんに対する新しい手術法について

大腸がんに対する新しい手術法について以下に説明します。

■ 腹腔鏡下大腸がん手術
大腸がんでは、がんが大腸壁の粘膜内や粘膜下層内でも浅い部分にとどまった程度の早期がんであれば、転移の危険性がないため、肛門から挿入した大腸内視鏡で切除する方法(内視鏡的切除:ポリペクトミー/EMR/ESD)などが有用で、これで治療が完了します。  
しかし、早期がんでも粘膜下層深く拡がっている場合などやこれより深部におよぶ進行癌に対しては手術(周囲のリンパ節と一緒に腸切除)をする必要があります。  

大腸がんの手術はこれまで開腹手術(お腹の真ん中などを20cm程度切り開いてする手術)によって行われてきましたが、近年お腹に5mmから1cmの小さな穴のような創(傷)を5ヶ所ほどつけて炭酸ガスでお腹を膨らませてお腹の中に手術する空間を作り、小さな創から入れた腹腔鏡(お腹のカメラ)と器械を用いて大腸を切除して3~6cmの小切開創から摘出し(取り出し)、切離された腸をお腹の外か中で吻合する(つなぐ)「腹腔鏡下大腸がん手術」が保険適応となりました(写真3)。腹腔鏡下手術では、腹腔鏡の近接視・拡大視効果により、肉眼では見えにくい細い神経なども明瞭に観察できますので、神経の温存などを適切に行いやすくなります(写真4)。また、腹腔鏡下手術では傷が小さくて分散しているため、従来のお腹を大きく切って大腸を切除する開腹手術に比べて、術後の痛みや癒着が少なく、手術からの回復が早くて腸閉塞や創感染などの後遺症が少ないなどの利点があります(写真5,表1)。

写真3 腹腔鏡下大腸切除術気腹(炭酸ガスでお腹をふくらませてお腹の中に手術する空間を作り)のもとに、腹腔鏡(カメラ)や特殊なハサミ、電気メスなどを小さな穴(ポート)からお腹に入れて手術を行います。

写真4 腹腔鏡下大腸切除術腹腔鏡下手術では、腹腔鏡の近接視・拡大視効果により、肉眼では見えにくい細い神経なども明瞭に観察できますので、神経(左腰内臓神経:男性の性機能(射精)を司る)などの温存も適切に行いやすくなります。

写真5 開腹大腸手術(左)と腹腔鏡下大腸手術(右)の傷の比較


  開腹手術 腹腔鏡下手術
術後入院日数 2~4週間 1~2週間
通常の生活に戻れるまで 4~6週間 2~3週間
手術の傷跡 15~20cm 5mm~1cm-4~5カ所
3~6cm-1カ所
手術後の痛み 約7日間 約3日間

ただし、腹腔鏡下大腸手術は気腹下(炭酸ガスでお腹を膨らませて)に行いますので気腹の際に腸や血管を傷つける危険性があります。また、手術中に高炭酸ガス血症になることがあります。これらに対しては、直視下小開腹法で腸や血管などの損傷を避け、手術中は血液の中の炭酸ガス濃度を監視して気腹圧を下げるなどして対処します。また、手術台ごと頭を低くするような体位をとることもありますが、心臓や肺など全身状態を監視して全身状態への影響が少ない程度にします。なお、血管や臓器などから出血したり、腸管や尿管などの損傷がおこったり、高度な癒着やがん浸潤などがあって腹腔鏡下手術で対応できないこともあります。このような場合には、速やかに開腹手術に切り替えて適切に対応し、その時の患者さんにとってベストの手術を行います。  

とくに、腹腔鏡下手術には、触診が行えない、視野が狭くて全体像を捉えにくい、2次元モニター上の手術で深部感覚に乏しい、ワーキング・スペースが狭い、器具とその操作方向に制限が多い、わずかな出血でも術野が著しく劣化する、止血には開腹手術以上に時間や労力を要するなどの問題点があるため、その技術の修得には十分なトレーニングが必要です。  
また、腹腔鏡下大腸がん手術は、がんの部位・進行度やお腹の中の状態(癒着や肥満)などによって難易度が違います。盲腸・上行結腸やS状結腸のがんに対しては術式も定型化してきており、腹腔鏡下大腸がん手術の基本部位と言えます。これに対して、横行結腸・下行結腸や直腸のがんに対する腹腔鏡下手術では的確なリンパ節郭清と血管処理、適切な腸管の剥離授動と切除などの面で難易度が高いとされています。また、お腹の中の癒着や内臓脂肪が高度な場合も手術が困難となります。さらに、進行大腸がんに対しては再発を始めとする長期予後の問題があります。  

以上のように、腹腔鏡下大腸がん手術を安全かつ的確に施行するには高度な技術と豊富な経験を要求されますので、腹腔鏡下大腸がん手術実績の豊富な病院での治療を受けられることをお勧めします。

■ 経肛門的括約筋部分切除を併用した超低位直腸切除術 (究極の肛門温存術)
もうひとつの話題は、「究極の肛門温存術」です。  これまで大腸がんのなかでもとくに肛門に近い直腸がんには一律に肛門も切除する直腸切断術が施行され、永久人工肛門を付けることを余儀なくされていました。近年、いままでなら永久人工肛門となっていた直腸がんに対しても肛門縁から3~4cmほど距離があって一定の条件を充たせば、自分の肛門を残せる超低位直腸切除術(「究極の肛門温存術」)が行われるようになってきました。この手術でも縫合不全を予防して良好な肛門機能を温存するため一時的な人工肛門を付けることが多いですが、再発の有無や肛門機能を評価して良ければ半年後位をめどに一時的人工肛門を戻す手術をしますので、自分の肛門からの自然排便が可能となります。  
この究極の肛門温存手術も高度な技術と豊富な経験を要することと、再発や肛門機能などに問題があるため、実績のある病院を選ばれることをお勧めします。